「大根役者」は演技力の乏しい、演技が下手な役者という意味で使用されます。ですが「大根役者」は褒め言葉として使用されることもあるんだとか。今回は、「大根役者」はなぜ大根役者というのかを解説していきます。合わせて大根役者の類義語や対義語、例文についてもご紹介していきます。
大根役者とは?その由来・語源・歴史は?
「大根役者」はいつから大根役者といわれるようになったのでしょうか。ここでは大根役者の意味と由来、歴史についてご紹介します。
大根役者とは?
「大根役者」とは、演技が下手な役者のことを示します。
新人で演技経験の浅い人という意味ではなく、どちらかと言うと演技力がない役者やありきたりな演技で魅力のない演技をする役者のことを示します。
また、アイドルやお笑い芸人など本業が役者や俳優ではない人が演技をする場合にも用いられます。アイドルであれば、演技力ではなく優れた容姿による起用が多く、「大根役者」と言われることがあるようです。
大根役者の語源・歴史は?
「大根役者」という言葉を調べると「江戸時代」や「歌舞伎」と関連があることが分かります。
江戸時代には歌舞伎が大流行しました。その中で格のある俳優などが次々現れ、その反動で人気のない下級の役者も際立ちました。歌舞伎の舞台で芸をしている役者への悪態・野次りとして使用されたのが始まりと言われています。
最初は「大根!」とだけ言われていたようですが次第に「大根役者」という言葉も使用されるようになりました。
芝居が下手な歌舞伎役者に対してヤジを飛ばす際に「大根!」や「大根役者!」と使用されていました。
役者の立場になって想像してみるととてもつらいですね。
大根役者の由来は?
なぜ「大根!」や「大根役者!」といわれるようになったのでしょうか。ここでは大根役者の由来を9つご紹介します。いろいろな説があるのはとても面白いですね。
大根役者の由来①大根が食あたりしない食材なのが由来
食あたりになる(食中毒を起こす)ことを、「あたる」と言いますよね!
ドラマがヒットし世間に評価され一躍人気になることを「あたる」と言います。食材の大根はとても消化が良く、「食あたり」になることがない食べ物です。
「演技が下手な役者・俳優」は「あたらない=ヒットしない」というのを大根は食中毒にならない(あたらない)にかけた言葉として「大根役者」という言葉が出現したと言われています。
「大根役者」
大根は消化がよいので、お腹(なか)の調子が悪くなること、あたることはめったにありません。このことから、平凡で、あたらない(うけない)役者をこういうようになりました。
引用:https://www.maff.go.jp/
なんと!農林水産省の公式HPでも「大根役者」の解説としてこの説が掲載されています。
大根役者の由来②大根おろしと役をおろすのおろすをかけた
演技が下手で役を降板させられることを「役をおろす」と言います。
この「おろす」を大根おろしの「おろし」にかけて「大根役者」という言葉ができたという説があります。
大根役者の由来③大根の白い姿と白粉(おしろい)をかけた
江戸時代に芝居の下手な役者ほど白粉をたくさん顔に塗られ、表情を隠したとされています。白粉を濃くすると表情が隠れ芝居を誤魔化せるからです。
白粉(おしろい)とは?
白粉(おしろい)とは、芝居をする際の化粧・化粧品のことです。顔や首筋など、肌を白くします。
大根の白さが白粉の白さと同じことから、「大根役者」と言われるようになったという説があります。「大根のようにしろく白粉を塗られた役者・俳優」は「演技力がない役者」という意味です。
大根役者の由来④「白い」大根と「しろうと」をかけた
大根の「白」にかけた説は他にもあります。大根の白色にしろうと(素人)の「しろ」をかけたという説です。
演技が素人という意味で大根の白が使われ、「素人の役者」という意味を持つようになりました。
大根役者の由来⑤「白い」大根と場が「白ける」をかけた
大根の「白色」と、演技が下手で場が白ける(しらける)をかけたという説があります。
芝居が下手で、場を白けさせる役者を「白ける役者」という意味で「大根役者」と言うようになりました。
大根役者の由来⑥「代行(だいこう)」がなまって「大根(だいこん)」になった
「ダイコウ」は「代行」です。
今とほとんど意味は変わりませんが、「代行」は予定の演者が芝居が出来なくなったときにその芝居を代行する人のことを示します。また、役人の職務を代行する準役人という意味も持ち、役者でいえば周りの世話をする付き人のような役目も「代行」が担っていました。
その「代行(ダイコウ)」が訛って「大根(ダイコン)」になったという説があります。
代行役者は人気のない役者で舞台で芝居をすることはなかなかありませんでした。その「代行」が「大根」になったと言われています。
大根役者の由来⑦馬の足に似てるから
江戸時代の芝居では「馬の足を演じる役」がありました。もちろん顔は出ません。下級の役者や、新人の駆け出し役者・俳優は「馬の足」の役をすることが多かったようです。
大根が馬の足に似ていることから、「馬の足を演じる役者」という意味で「大根役者」と言われるようになったという説があります。
大根役者の由来⑧「演技に特徴がない」と「味がない」をかけた
大根は食材としてあまり「味がない」ですよね!
その「味がない」に「演技の味がない」をかけたという説があります。
味がない役者。つまり、演技に特徴がなく味気ない。ありきたりな演技で魅力がない演技をする役者のことを「味がない大根」にかけて「大根役者」というようになりました。
大根役者の由来⑨「大根はうまい。だが、お前は大根にもなってない。」
「大根役者」は、「六代目・尾上菊五郎(おのえきくごろう)」に由来すると言う説です。これも情報としては載っていますが、こちらの説は「大根役者」の由来となったものではありません。
大根役者という言葉は福沢諭吉の代表的な言葉にもなっています。つまり、福沢諭吉の時代には既に「大根役者」という言葉は存在したということです。
しかし!面白い説だったので載せておきます!
歌舞伎界で、大正・昭和期に名優と言われた六代目・尾上菊五郎さんが、新人の役者に対して言った言葉が「大根役者」の由来とされる説として情報が載っていました。
「大根はうまい。だが、お前は大根にもなってない。」
大根を仮に「演技」に関しての言葉とすると、「君の演技は大根のようにうまくもない」つまり、「演技になっていない。演技が出来ていない」ということを示すのかもしれません。
尾上菊五郎さんの言った言葉から、はっきりとした「大根役者」の意味は分かりませんが、ネガティブな表現であることは分かりますね。「大根役者以下」という意味にも取れます。
なぜ?大根役者というのか
「なぜ大根役者というのか」の由来を9つご紹介しました。以下、一覧でご紹介していますのでご覧ください。
- 大根役者の由来①大根が食あたりしない食材なのが由来。「役があたらない」「作品がヒットしない」にかけられている。
- 大根役者の由来②大根おろしと「役をおろす」をかけた。
- 大根役者の由来④「白い」大根と「素人(しろうと)」をかけた。
- 大根役者の由来⑤「白い」大根と「場が白ける」をかけた。
- 大根役者の由来⑥「代行(だいこう)」がなまって「大根(だいこん)」になった。
- 大根役者の由来⑦馬の足に似てるから。売れない役者は当時馬の足の役を演じていた。
- 大根役者の由来⑧大根に「味がない」と「演技に特徴がない」をかけた。
- 大根役者の由来⑨尾上菊五郎「大根はうまい。だが、お前は大根にもなってない。」
なぜ大根役者というのかの説についてご紹介しました。「素人」「白粉」「白ける」など「大根が白い」ということにかけた説が多かったですね。
大根役者の類義語・言い換え語
「大根役者」の言い換え語を9つご紹介します。「大根役者」以外にも演技が下手な役者を意味する慣用句があります。
大根
大根役者の略語。大根役者を「大根」だけで使用する場合もあります。
三文役者
三文の「文」は日本において江戸時代以前からあるお金の最小貨幣単位です。価値の低い演技ということですね。
イモ役者
「芋」はどこでも手に入る食材、洗練されていないものという意味を持つことから「イモ役者」という言葉が生まれています。また、イモ料理は田舎料理の代表として挙げられます。
へっぽこ
「へっぽこ」には、「だらしがなく、締まりがない」というい意味があります。技術が劣っている様を表し、「ポンコツ」とも言います。
田舎役者
「都会」と比較した「田舎」のイメージから。
大部屋俳優
歌舞伎では、地位が低い役者・主ではない役者は個別に部屋がなく、大人数が一つの部屋で待機するということがありました。そこから、地位の低い役者のことを大部屋俳優と言うようになりました。
緞帳役者(どんちょう)
「緞帳」は「どんちょう」と読みます。緞帳とは、お金がなく人気のない芝居や公認されていない芝居で舞台を隠す幕のことを示します。通常の幕は定式幕と言い、江戸時代には幕府から許可された座だけが「定式幕」を使用できたそうです。
緞帳役者とは、公に座として認められていない人気のない芝居の役者のことを示します。
ドサ役者
「ドサ」とは、役者が地方を巡業して自分を売り込みに行くことを示します。現代での「営業」です。
猿芝居
本来の「猿芝居」とは、猿に芸を仕込み披露する見世物のことです。猿芝居のような真似をするだけの芝居・へたくそな応用の利かない芝居のことです。
ベタな演技:
「ベタ」は元々、「ありきたり」「そのまま」の意味で使用されていました。特別でない普通のありきたりな芝居のことを示します。
こんなにもたくさん類義語があるなんて知りませんでした!
「大根役者」は海外でハム役者と言われている!
英語圏でも日本の「大根役者」のように演技が下手な役者を表現する言葉があります。
英語圏では演技力のない役者(unskillful actor)のことを「ham actor」「ham」というのだとか。
食べ物のハムと関係しているの?
そう思うよね。でも実は違うんですよ!
「大根役者」を意味する「ハム役者」は作品の「ハムレット」が由来!
「ハムレット」という作品をご存じでしょうか。「ハムレット」はイギリスの劇作家、ウィリアム・シェイクスピアが作った悲劇です。
正式名:デンマークの王子ハムレットの悲劇
なぜ演技が下手な役者を「ハム役者」というのか
「ハムレット」という作品はとても有名な作品です。英語圏では知らない人はいないと言っても過言ではありません。
- 「ハムレット」はどんな役者でも、誰が演じてもヒットする
- 演技が下手な役者ほど「ハムレット」を演じたがる
など、有名な作品だからこそ「ヒットしないわけがない」「誰が演じてもそれなりに形になる」などの認識がついたと言えます。
ここから、「ハム役者」という言葉が「演技が下手な役者」「演技力のない役者」という意味の言葉として使用されるようになりました。
何とも悲しい話です。
他にも
- 売れていない下級の役者が、化粧を落とすときのクレンジングオイルとしてハムの油を使用していたことから、売れていない演技の下手な役者を「ハム役者」というようになった説。
- 「ham」には食べ物の「ハム」のほかに「道化・道外(どうげ)」という意味があります。「どうげ」とは、面白おかしく滑稽な身振りや言葉で人を笑わせること、人の意味です。
このことから、「ハム役者」が、自然な演技ができない演技の下手な役者という意味になったという説。など、「ハムレット」の説以外にも、「ハム役者」の由来となった説は複数ありました。
大根役者の対義語・反対語
「大根役者」は演技が下手な役者という意味ですが、反対に演技が上手い役者の意味を持つ対義語をご紹介します。
千両役者
江戸時代の歌舞伎役者で人気役者の中でも特に人気の役者で、大衆を魅了した役者のことを千両役者と言いました。一年の給金が「千両」を超える役者がいたそうです。「千両」は、現代の価値で約5千万円〜1億円とも言われています。
花形役者
「花形」とは、江戸時代の歌舞伎において「花方」と表されていました。華やかな方の役者という意味で「花方」です。次第に「方」が「形」になりました。
スター
19世紀頃のイギリス・アメリカの人気俳優の控室にはスターが目印として付けられていました。それが人気俳優をスターと呼ぶようになった由来とも言われています。また、「人気俳優」が「スター」として広まったのは、「星がキラキラ輝くように人気俳優は注目を浴びて輝いているから」というのもあります。
名優
「名のある俳優」「名前が世間に知られているほど人気な俳優」という意味です。
実力派
二世俳優や、容姿の良さで人気になった俳優ではなく、演技の実力で人気になった俳優・役者のことを示します。
大根役者の文章・例文・会話例
「大根役者」の例文をご紹介します。主に「演技が下手」という意味で用いられますが、SNSでは、「大根役者っぷりが良い!」と好きな芸能人の演技が下手だということに愛着を抱いている方もいました。そういった意味では、「大根役者」は必ずしもネガティブな意味で使用されるわけではないようです。
彼は歌もダンスも上手いのに演技は大根だよね。
アイドルなんだから大根役者でもいいじゃん。
アイドルだから大根役者かと思っていたけどそんなことなかった。
このドラマは大根役者しか出演しないからつまらなかった。大根役者に加えて、制作スタッフも三流か。。。
福沢諭吉:人生は芝居のごとし、上手な役者が乞食になることもあれば、大根役者が殿様になることもある。とかく、あまり人生を重く見ず、捨て身になって何事も一心になすべし。
大根役者は実は褒め言葉?
「大根役者」という言葉を褒め言葉として使用したり、解釈したりすることがあるようです。
「大根役者」という言葉が褒め言葉として解釈される理由は、食材の「大根」がどんな料理にも使用できる万能な食材であり、大根料理はレパートリーが多いからです。
大根は食材として応用が効く食材です。つまり、「応用が効く、演技力のある役者」という解釈であり、「大根役者」は褒め言葉として一部で使用されています。
しかし、本来の「大根役者」の意味は褒め言葉ではありません。正しい使い方は「演技力のない、演技が下手な役者」という意味です。間違った使い方、解釈をしないようにしましょう。
大根役者以外の「役者」慣用句
「大根役者」という言葉をご紹介しましたが、「役者」を使用した慣用句は他にも多く存在します。以下では「役者」を使用した慣用句を4つご紹介します。
役者子供(やくしゃこども)
「役者子供」の意味は?
- 役者は演技のこと以外には疎く、子供のように世間知らずであること。
- 子供の歌舞伎役者のこと。
役者が一枚上
「役者が一枚上」の意味は?
能力・人柄・知識・駆け引きなどその人自身が他と比べて一段と優れていること。役者のクレジットタイトルで主役が一番上から表示されることに由来する。他にも同じ意味で「役者が上」「役者が違う」ともいう。
昔は、芝居の実力で看板に載る役者の名前の順番が決められていました。演技が上手い人ほど上に名前が載ります。
役者に年なし
「役者に年なし」の意味は?
- 役者は、年を取らず、いつまでも若いということ
- どんな役でも演じ、気が若い。どんな年齢の役でも巧みに演じるということ。
役者不足
「役者不足」の意味は?
- 人物の能力に対して役割が不足していること。役割が簡単すぎること。
なぜ大根役者?のまとめ
今回は、「なぜ大根役者というのか」についてご紹介しました。大根役者にはたくさんの由来があり、とても面白かったです。
なぜ大根役者というのか。その由来。
- 「大根は食あたりしない」と「役があたらない」をかけた
- 「大根おろし」と「役をおろす」をかけた
- 「白い」大根と「素人(しろうと)」をかけた
- 「白い」大根と場が「白ける」をかけた
- 「代行(だいこう)」がなまって「大根(だいこん)」になった
- 大根と馬の足が似てるから
- 大根に「味がない」と演技に「特徴がない」をかけた
- 尾上菊五郎「大根はうまい。だが、お前は大根にもなってない。」
大根役者の9つの類義語・言い換え語
- 大根
- 三文役者
- イモ役者
- へっぽこ役者
- 田舎役者
- 緞帳役者
- ドサ役者
- ベタな演技
- 「ham actor」「ham」
大根役者の5つの対義語・反対語
- 千両役者
- 花形役者
- スター
- 名優
- 実力派
また、大根役者を褒め言葉として使用している例もあります。
現代のSNS上では、自分の好きな芸能人の演技を「大根役者」と言っている例もあり、必ずしもネガティブなワードなわけではなく、一種の愛着表現として使用しているのがとても興味深かったです。
「かっこよくて歌もダンスもできるのに大根役者なんだよな」とコメントしている方もいました。