「役者」と「俳優」という言葉は一見、同じような意味に感じます。言葉の使い方、意味合いも同じものとして使用している方が多いのではないでしょうか。
確かに、「役者」と「俳優」はどちらを使っても意味が通じますね。
今回は、「役者」と「俳優」という言葉に違いはあるのか、その使い方や使い分けについて解説していきます。
俳優の意味とは?
俳優とは?
現代の俳優とは、演劇や映画、テレビドラマなどの作品において、セリフ(台詞)や身振り、表情で作品内の人物に扮して演じる人のことです。また、その職業のことも示します。俳優は英語でactorです。
「俳優」はとても幅広い使い方が可能で、単に「演じる人」という言葉で様々な種類や分類の「演じる職業」で使用されています。
例えば、映画俳優、舞台俳優。ミュージカル俳優など、同じ「演じる職業」でもその種類によって○○俳優という使用の仕方が可能です。
例えば、映画役者という言葉はあまり聞かないね。その点、俳優という言葉は役者よりも便利な使い回しができるね!
アクション俳優や二枚目俳優、個性派俳優などの使い方もあるよね。
過去には、「俳優」の対義語として広く普及していた言葉に「女優」がありました。しかし、最近では使われることが少なくなり、男性、女性問わず、俳優と表現するようになっています。
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役者の意味とは?
役者とは?
現代の役者とは、能楽や歌舞伎、芝居で役に扮して演じる人のことです。
また、駆け引きなどに長けており、人前で抜け目なく振る舞うことができる人のことも言い、「なかなかの役者で油断ならない。」という表現でも使用されます。
1688年〜1704年の元禄時代には歌舞伎の演者のことを役者と言い、その名残として今でも歌舞伎役者と表現される際に使用されます。
「演じる人」という意味合いで広まった言葉としては、「俳優」よりも「役者」の方が早くから使用されていたんだね。
江戸時代の当時、歌舞伎役者は身分の低い卑賎(ひせん)とされていた為、次第に卑賎をイメージさせる役者という言葉は使用されなくなりました。
そして「俳優」に統一されていったそうですが、中には「役者」であることに誇りを持っていた人もおり、当時「役者」の称号は大衆に親しまれていました。
俳優と役者の違い①語源が違う!
役者と俳優の違いの一つに、「語源」の違いがあります。
役者も俳優も、もともとは「演じる人」という意味では使用されていませんでした。
俳優の語源
俳優の語源は「わざおぎ」にあります。
俳優は今では「はいゆう」と読みますが、奈良時代では「わざおぎ」と読まれていました。そしてその「わざおぎ」は現代とは意味が異なります。
俳優(わざおぎ)とは?
俳優(わざおぎ)とは、神様を楽しませる行事、催しを意味します。
踊りや歌などの芸を披露することで神々を楽しませ、豊作の祈願や魔除けをしていました。
奈良時代から「俳優(わざおぎ)」は存在していて、古事記や日本書紀にその文字があります。
今では、「演じる」という意味の「俳優」ですが、昔はその意味では使われていなかったんですね。
その後、神ではなく人々を楽しませるための踊りや歌などの芸が「大衆文化」として生まれ、「俳優」の意味も変化していきました。その変化が顕著に現れているのが平安時代です。
平安時代の末期には演劇(田楽や猿楽)があり「演じて人々を楽しませる人」を「俳優」と呼ぶようになりました。
そこから、能や狂言、江戸時代になると、歌舞伎で演じる人が出現し、次第に俳優が職業化していったのです。
役者の語源
反対に、役者の語源は、「役目」にあります。役者の「役」は「しごと」「つとめ」の意味があります。従って役者はもともと、「役目」の意味で使用されていました。
役者とは?
役者とは、特定の役割を担う人のことを示します。
お寺などの行事では、特別な役割があり、その役目をもらった人のことを「役者」と呼んでいました。
そのため、その役目を与えられて「役者」になったという意味合いが強く、その名残として、現代の「演じる人」の語の中でも、「俳優」より「役者」の方は格の高い人、演技が一流の人に使う傾向があります。
卑賎というイメージがある一方で、語源から語を辿ると身分が高いというイメージもあるのはおもしろいね。
今でも、有名な大御所の人は「俳優」より「役者」のイメージがあるね!
役者も俳優と同じように昔は違う意味で使用されていました。
「役目」という意味から意味が拡大していき、舞台で演じる人という意味になったんですね。
室町時代になると、その意味が一般化していき、演劇、歌舞伎、映画と時代とともに「演じる」という意味が確立していったのです。
俳優と役者の違い②演じる種類によって呼び方が違う!
現代では役者と俳優はどちらも「演じる」という意味を持ちますがそのイメージによって使い分けがされていた時代もあります。
そもそも役者とは、能楽、歌舞伎、芝居などの登場人物に扮して演じる人という意味がありました。
一方で俳優とは、舞台、テレビ、映画で登場人物に扮して演じる人という意味がありました。
どんな作品で演じるかによって「役者」と「俳優」の使い分けがあります。
作品が伝統的なものである場合は、「俳優」よりも「役者」が使用される傾向があるんですね。
また、うまい演技をする俳優、素晴らしい俳優を「役者だね〜」や「役者の鏡」と褒める際にも「役者」が使用されます。
「俳優」はベテランでも新人でもどちらでも使用されますが、「役者」はどちらかというとベテランで使用されることが多く、重厚感のあるイメージがあります。
はっきりとした使い分けは存在しませんが、使用する場所やそのイメージで「演じる人」の表現の仕方が変化します。
俳優と役者の違い③芸能人の考え方によって意味が違う!
「役者の鏡」という表現があるように、「役者」は「俳優」よりも「演じる」ことに長けていて、技術のある人に対して使用される場合があります。
大御所の俳優やベテラン俳優の中には「自分は俳優でなく役者だ」と役者であることに誇りを持っている人や、こだわっている人もいるようです。そしてまたその逆も然り。
以下では、「俳優」と「役者」の考え方、捉え方、イメージについてご紹介します。
ベテランの役者さんは特に「自分は役者だ」と明言している方が多いね。
ベテランで格のある方には「俳優」より「役者」の方が言葉としてピッタリな気がするね。
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「俳優」あるいは「役者」を職業としている芸能人の中で「俳優」と「役者」の捉え方の違いがあります。4人の芸能人が「俳優と役者の違い」について語っていましたのでご紹介します。
武田鉄矢(たけだてつや)「自分は役者ではなく俳優だ」
武田鉄矢さんは「俳優とは大スターのことである。」と語っています。大スターは何回も主役をするような太陽のように明るい俳優のことです。
俳優は、台本を一冊しか持っておらず、脇役しない、常に主役をしているような人のことを言います。
反対に武田鉄矢さんの言う「役者」とは、台本をいくつも持っているような脇役を演じることができる人のことです。
武田鉄矢さんの俳優と役者の違いは演じる作品の中でどのような役をもらうか、あるいは、するかというところにあります。
俳優と役者でどちらが売れている、売れていないという話ではありません。名脇役という言葉がある通り、選ぶ役によってその人が俳優になるか役者になるかが変わります。
華やかに見える、才能があるように見える「俳優」ですが、「キャラが一つしかもてない」というデメリットもあります。
「一度そのキャラクターで有名になってしまうと一生涯その役を背負わなければいけない。」と武田鉄矢さんは語っています。
例
- 「俳優」の例は、木村拓哉さん、天海祐希さん、織田裕二さん、阿部寛さん、山下智久さんなど。
- 「役者」の例は、柄本明さん、西田敏行さん、香川照之さん、北村一輝さん、遠藤憲一さんなど。
俳優は明るくてヒーローのような誰からも好かれる役柄が多い一方で、役者は友人役、家族役、悪役、敵役など様々な役柄があるね。
演技の幅が多いから演技力もそれなりにないと役者はできないと言えるね。
佐藤史郎(さとうしろう)「俳優と役者の違いは、作品のためか自分のためか。」
俳優とは、作品のために演じる人のこと。反対に役者とは自分のために演じる人のこと。と佐藤史郎さんは語ります。
演技をどのように行うかで演じることに違いがあります。
佐藤史郎さんは若いころ、自分をどう演技で見せるかを考え、常に「自分が!自分が!」と思っていたそうです。
作品の登場人物は関係なく自我を吐き出していたそう。
しかし、経験を積むにつれてモノを作ることを考えるようになり、作品の中で生きるために演じるという意識に変わっていったと語っています。
佐藤史郎さんの俳優と役者の違いは演じることへの意識の違いです。
内孝則(じんないたかのり)「俳優と役者の違いはその世界への入り方」
陣内孝則さんは、「俳優とは、なりたくてなった人で、役者とはなるべくしてなった人」と語っています。
俳優とは、業界に入りたくて努力して勉強し、演技力で演者になった人を俳優と言います。
一方で役者とは歌舞伎役者のような家系で代々その職業につくなど、誰かに言われて業界に入った人のことを言います。
陣内孝則さんの俳優と役者の違いは、実力で芸能界に入ったか、必然的に芸能界に入ったかです。
実力派俳優という言葉もあるね。
加藤浩次(かとうこうじ)「俳優と役者の違いは優しいか厳しいか」
加藤浩次さんは俳優には「優」という漢字が入っているから、俳優とは下(後輩)に優しい人であり、反対に役者は下(後輩)に厳しい人と語っています。
加藤浩次さんは過去に実際厳しい人がいた経験から役者は厳しいというイメージがあるようです。
昔は芸能界の世界だけでなく、学校や会社でも先輩や先生、上司は厳しいものでした。そのイメージが役者の世界にもあったのかもしれないね。
役者は俳優と違い、職人の気質のイメージがある
役者には職人気質のイメージがあり、「君は、役者だねー」と誉め言葉で「役者」を使うことがあります。
その背景には、劇団など、特に役作りを重要視する作品では、自分が役に合わせて演技をしないと役がもらえないことがあります。
俳優に比べ「役に自分を合わせる」または、「役に自分を合わせることができる」人を役者と呼ぶ傾向があるのです。
役になりきって演技をすることが役者にとっては重要なんだね。
役者の中には役に入り込みすぎて役が抜けなくなる人もいるみたいだよ。
使い分けとして、職人気質のある、または、演技の技術が高い人には「俳優」よりも「役者」の方が言葉として適切という考え方があります。
俳優は役者と違い華やかなスター性がある
俳優は役者と違い、華やかさがあります。存在感があり、画になる存在が俳優であると言われます。
主役を演じる人など、現場や、テレビ画面でその人がいるだけで雰囲気が変わる、そんな存在が俳優です。
俳優は、人気のある人が多く視聴者を集めやすい傾向があります。主役などの中心的な役になることも多いのではないでしょうか。俳優にはジャニーズや歌手などタレントの人が多いです。
使い分けとして、俳優は、その俳優の影響力で作品を盛り上げる役割を担い、役者は演技力で作品の質をあげていくそんな役割を担っているといえます。
俳優でも演技力が高い人はいますが、武田鉄矢さんが言うように、その俳優のイメージは作品に強く影響するよね。
「この俳優だからみたい!」ってなるもんね!
俳優と役者の違い④意味の幅が違う!
ある歌手がドラマで演技をしているのを見た際、「歌手の○○は俳優もしてるんだ!」とは言っても、「歌手の○○は役者もしているんだ!」とはあまり言いません。
俳優は芸能人全般に対して使用します。
普段は異なる仕事(歌手、声優、お笑いなど)を行っているが、演技も仕事の一つとして行っている場合に「俳優」という言葉を使用する傾向があります。
意味としては「俳優」は職業(生計を維持するために従事する仕事)ではなく、あくまで芸能人がする仕事の種類という位置づけです。
「役者」という言葉よりも「俳優」という言葉が一般的に使用されている理由の一つにこれがあり、「俳優」という言葉を芸能人がする仕事の一つとして捉えている方もいるのではないでしょうか。
一方で「役者」は、職業の一部というよりは、芸能人という言葉に値するような、演じる仕事。つまり、その職業一本で仕事をしている人を指す場合があります。
また、「演じる仕事」と言ってもたくさんあります。
例えば、「俳優」と聞くとテレビドラマや映画、舞台で演じる人を思い浮かべますが、「役者」と聞くとテレビドラマや映画、舞台だけでなく、歌舞伎、能などの伝統芸能のイメージもあります。これをすべて「役者」ということができます。
ポイント
- 「俳優」は芸能人の仕事の種類であり、芸能人全般に使用できる言葉である。対して、「役者」は芸能人に相当する言葉であり、「演じる仕事(職業)」が主な人に使用する言葉である。
- 「俳優」はテレビドラマ、映画、舞台で演じる人のことを指し、メディアに露出する機会の多い有名な芸能人であるのに対し、「役者」はテレビドラマ、映画、舞台に加え、伝統芸能である歌舞伎などで演じる人も含まれる。そのため、「俳優」よりも「役者」の方が「演じる仕事」、「演じる人」の範囲が幅広い。
「役者」の範囲は演じる仕事全般だけど、「俳優」は限られた一部の仕事にしか使用しないようだね。
確かに、歌舞伎の演者には「俳優」より「役者」の方が合ってるね。
俳優と役者の違い⑤与えられた役の演じ方が違う!
演じ方の違い
俳優は役をどう演じるか考え、時には自分らしさ、独自性を加えて演じます。
一方で役者は、いかに与えられた役になりきれるかを考え演じます。自分を役に近づけるということです。
「演じること」の捉え方、考え方によって「役」の表現の仕方が変わります。演者さんによって役への向き合い方が違うんですね。
一つの作品で、「あの人誰!?」と話題になり、一気に有名人気俳優になるような方は、自分を売り込むための演技をしている俳優かもしれません。
反対に、1シーズンに複数のドラマに出演している方や頻繁に作品で出演しているような方は、作品の役にいかに近づくことができるかを考え演じることで複数の作品から求められている、幅広い演技ができる役者なのかもしれません。
この場合の「俳優」と「役者」は1人の芸能人がどちらであるかということではありません。
作品ひとつひとつに対してどのような姿勢で演じるかであるため、1人の演者さんが「俳優」である時も、「役者」である時もあるということになります。「俳優」として演じるか、「役者」として演じるかは作品によって違ってきます。
俳優と役者の意味に違いはない!?
「俳優」と「役者」の違いについてご紹介してきましたが、実際のところ「俳優と役者の違い」はあるのでしょうか。
結論を申しますと、「俳優」と「役者」は一般的には同じ意味です。
どちらも「演じる」または「演じる人」という意味があり、どこで演じるか、何を演じるかは無関係です。
どんな作品で演者をしてようと、その人を「俳優」と呼ぼうが、「役者」と呼ぼうがどちらも正解というわけです。
言葉が出現した時には違う意味であった「俳優」と「役者」ですが、その意味の幅が、徐々に広がっていくにつれて同じ意味になったと考えられます。
出発点は違うものの同じ意味になったんですね。
「役者」はもともと演技をする人を指していましたが、次第に役者が踊ったり、歌ったりするようになったことで、もともと「歌う」「踊る」という意味を持っていた「俳優」と意味が同じになっていったと考えられます。
意味は同じですが、今回ご紹介した「使い分け」「イメージ」「捉え方」「演者の演じることへの姿勢の違い」は確かにあり、同じ意味を持っていたとしてもその意味とは別の部分で違いはあると言えるでしょう。
俳優と役者の違いまとめ
今回は「俳優と役者の違い」についてご紹介しました。普段何気なく使用している言葉でも、突き詰めて違いを探っていくと意味以外の部分で違いを見つけることができました。
俳優と役者の違い
違うポイント | 俳優 | 役者 |
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語源 | 神を楽しませる催し、神を楽しませる人 | お寺などで特別な役目をもらった人 |
スターか脇役か | 作品の色を決める主役 | どんな役にも求められる脇役 |
誰のためか | 役で自分を見せる | 自分を役に合わせる |
努力か必然か | 演者になりたくてなった人 | 演者になるべくしてなった人 |
イメージ | 華やかなスター | 職人気質のある技術者 |
仕事の一つか仕事か | 芸能人の仕事の種類 | 職業 |
表す作品の幅 | テレビドラマや映画。伝統芸能を含まない。 | ドラマや映画に加えて歌舞伎、能も含む。伝統芸能を含む。 |
演じ方 | 自分らしさ独自らしさを加える | 与えられた役の人物にいかになり切れるか |
好きな芸能人や、演技がうまい芸能人が「役者っぽい」か「俳優っぽいか」考えてみるのも面白そうだね。